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第三章 二の蝶〜空のカケラと優しい夕月夜〜

last update Dernière mise à jour: 2026-02-25 17:30:49

 「さあ、はじめようか……血と煉獄れんごくの宴を……!」

 刹那、突風が吹いて藤の大樹がユラリと、しなる。

 あたしは銀の髪がふわっと舞い上がるのを、瞳に焼きつけた。

 誕生させた。

 夕月夜を、あたしが────

 何をしたか、を理解した。心臓の音がトクントクンと耳の底にまで響いているようだわ。すると突然、足元がフッと軽くなった。

 「雪椿、君は命の恩人だね。父上と母上の仇だ。いっしょに戦おうね」

 「にゃあっ」

 嫌だ! って言ったのだけど、これ全然伝わってないんだよねえええぇ〜。

 ────はあ、それにしても美しい。

 夕月夜の眼前まで持ち上げられた、ただいま白猫のあたし。

 彼の整った優美すぎる顔が、とっても近くにあったの。

 白磁の肌、艶めく銀の長い髪、涼やかな瞳はあわい藤紫だ。

 長い睫毛に、シュッとスジの通った鼻。

 どれも吸い込まれそうなほどに、麗しい。

 京の都で『傾国の美少年』とウワサが立ったのも納得がいったの。

 「さあ、これから戒と、計画を立てねばな」

 「そうですな。裏切った人間たちを滅ぼし」

 「この世を、妖怪の楽園へいざなおうぞ……!」

 藤
士狼かずさ

この先は、現世。そして美しいラストまで疾走しますので、しばしお付き合い下さい。

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     「さあ、はじめようか……血と煉獄の宴を……!」 刹那、突風が吹いて藤の大樹がユラリと、しなる。 あたしは銀の髪がふわっと舞い上がるのを、瞳に焼きつけた。 誕生させた。 夕月夜を、あたしが──── 何をしたか、を理解した。心臓の音がトクントクンと耳の底にまで響いているようだわ。すると突然、足元がフッと軽くなった。 「雪椿、君は命の恩人だね。父上と母上の仇だ。いっしょに戦おうね」 「にゃあっ」 嫌だ! って言ったのだけど、これ全然伝わってないんだよねえええぇ〜。 ────はあ、それにしても美しい。 夕月夜の眼前まで持ち上げられた、ただいま白猫のあたし。 彼の整った優美すぎる顔が、とっても近くにあったの。 白磁の肌、艶めく銀の長い髪、涼やかな瞳はあわい藤紫だ。 長い睫毛に、シュッとスジの通った鼻。 どれも吸い込まれそうなほどに、麗しい。 京の都で『傾国の美少年』とウワサが立ったのも納得がいったの。 「さあ、これから戒と、計画を立てねばな」 「そうですな。裏切った人間たちを滅ぼし」 「この世を、妖怪の楽園へ誘おうぞ……!」 藤の花びらが拍手のように、降りそそぐ。 そんな、そんな事のためにあたし……貴方を転生させたんじゃないよっ! 「にゃあああああああああああああああ」 あたしの哀を帯びた鳴き声が、藤の里に響いた。 猫なりに、大声で説得を試みたんだけど、ダメだわ。ぜんぜん通用しない。あたし、そんなつもりじゃなかった。ただただ、生きて欲しかったんだよ……っ! だって、夕月夜の父上と母上は、あんなに優しそうだったじゃない。妖怪たちの、あの哀しい死に様を想うと、あたしだって胸が焼けるように、チリチリと痛いけど。 でもだって、人の世を滅ぼすなんて。 きっと、父上も母上も望んでやしないよ! ────パリィィィン 何かが割れる音。 上空を見上げると、空にヒビが入っていた。パラパラ……と透明な、空の欠片が零れていく。 これは……夢? ────雪椿の記憶、どうだった? 脳裏にリンと響く、少女の声。 きっとこの幻影を見せた、彼女のしわざね。 「ねえ、あたしが見てきた世界は、夕月夜の過去の記憶なの?」 ────そうだよ 「貴方が、真紅の水蓮を……彼に食べさせたの」 ────うん。でもお姉ちゃん

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     「にゃ、にゃあぁぁぁあああああああああっっ」 あたしは精一杯の声を、絞りだした……っ! 生きてほしい! これ食べて、生きてほしいよ! もうどんな姿になってもいいよ、このまま死んじゃダメだよっ! 言葉にしたいけれど、それも叶わない。 声がぜんぶ猫になる。 だから彼の唇のすぐ近くまで、真紅の水蓮を運んだ。鼻先でズイッと前に押しだす。 ねえ、これ食べよ?  お願い、口に運んでよ──────っ! 「そっか……生きてほしい……って、こと?」 「にゃ、にゃあぁああぁ」 「わか……った」 夕月夜が、あたしの頭をふわふわと撫でる。 なんて、愛おしい瞳でみつめるのだろう。 ブルブルと震えながらも、ゆっくりと真紅の水蓮を握りしめた。よ、良かった……! そのまま仰向けになると、夕月夜は真紅の水蓮を口へと運ぶ。 ゴク、ゴクリ。 真紅の水蓮は、たまにブルッと揺れながらも、彼の口の中へと吸い込まれていった。 どうか、どうかお願い。 どんな姿でもいい、生き返って……! ドクン ドクン ドクンッ─────────── 夕月夜の背中がおおきく爆ぜる。 「か……っ!」 喉をかきむしり、震えている。 え、どうしよう。やっぱりヤバイ物だったのかな!? 顔色がみるみる紅く染まっていく、汗は滲み、のたうち、苦悶の表情が浮かんでいる。 「かっ、かは……っ!」 夕月夜は天空に手を突きだし、咆哮した……っ! 「ああああああああああああああああああああああああああああああ」 絶叫─────────── そのまま絶命するように、バウン……っと、地上に体が倒れていった。 しんと世界が静寂に包まれる。 「にゃ、にゃあぁ」 まさか、死んじゃった? 真紅の水蓮って、毒だったのかな。それとも体に合わなかったのかな。 「くっ、ふ……あはは……」 うつ伏せに眠る夕月夜から、ひそやかな笑い声が響いた。 「ははは……は」 笑ってる───────── えっと、真紅の水蓮が体に馴染んだのかな。 肩がふるふると小刻みに動いている。ってことは、生きてるって事だよね……? 「あはははははははははははははははははっ」 夕月夜がゴッ! っと勢いよく立ち上がる。 何、これ 何が起こったの……。 「そうか、これが転生か! いい。命の息吹がほとばしるようだ…

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     「ここで貴方は、あやかしに転生するのですよ。若君」 「あやかしに、私が?」 「さよう。このまま人の里に戻っても、何ひとつ取り返すことは、できますまい」 静かに荘厳に、人狼の戒は語りかける。 人狼は不老長寿の獣だと、聞いたことがあるわ。 この戒って男も、肌はプルップルで20代に見えるけれど、きっと数多の死線をくぐり抜けてきたんだろうな。戦い抜いてきた男の、説得力が感じられた。 「この真紅の水蓮を、食べるのです」 「真紅の、水蓮……?」 「これを食べれば『サトリ』と言う名の、妖怪へと転生できる」 片手にたずさえた、銀の布袋。 そこから現れたのはドクンドクンと脈打つ、まるで心臓のような水蓮の花であった。なんか……震えてる。キモッ!! 生きてるみたいで気持ち悪いよ〜!  こんなん食べたら、お腹壊すんじゃない? 「サトリって、どんな妖怪。強いの?」 「これは只のサトリではありませんぬ。千年、鬼に寄生して生きた『サトリ』の血を抜きだし、生成したモノ」 「えええええ、なんか怖いよ……っ!」 めっちゃ怖い。 夕月夜もイヤなのか、拒否反応を示した。 そりゃそうだ。戒はそれでもこの禍々しき、紅い水蓮を食べさせたいと告げる。 「この水蓮を食べて『サトリ』になりなされ」 藤の大樹の根元にて、戒は語りつづける。 背後にユラユラと揺れる花びらは、さながら紫の鈴のよう。花弁の舞い降るこの場所で、生き残ったあたし達は、静かに戒の話に耳をかたむけていた。 「これを食べれば記憶はそのままで、今よりはるか強靭な肉体を持った、貴方へと生まれ変わるはず」 「はず? 戒、君は食べた事あるの?』 「いえ、私はありませぬが。この水蓮を生成しておりました」 「君が作ったんだ! それは凄そうだけど……まだ私は人でありたいよ」 「しかし、今の体では、都を取り戻すなど……っ」 ヒュン──── 夕月夜と戒の間に、ザシュ! っと槍が地面に刺さる。 殺気を感じて、うしろを振り返る。 そこには、赤錆色の甲冑を纏った敵の大将が一人、刀をギリリと握りしめて立っていた。刃の切先は、まっすぐに夕月夜を指している。 「どうもこの隠れ里には、強い者しか入れないようですなあ〜。若君」 「なっ、貴様どうやってここまで!」 「こっそりと追いかけてきたのよ」 「他に追手

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     「父上、母上────っ!!」 「おい、待ちやがれっ!」 武士の一人が刀を振り上げて、あたし達に向かってくる。 夕月夜の父上が、追いかける武士の背中にザシュ! っと、一太刀浴びせた。 「うおおおおおおおおおおおおおおっっっっ」 だが他の武士たちが、次々に父の体を、斬り裂いていく……っ! 「うっが……っ!」 「父上────────っ!」 逃げていく子ども達。 夕月夜だけが一人、ふりかえった。 血に染まる彼の父上は、刺さった刀をグッと握りしめる。まるで、その先に行かせまいとするように……! 「ゆう、づき……よ。生きろ……っ」 「父上……っ」 「どんな姿でも、いい。絶対に……しあわ……せに……っ!」 「そんな……」 その時。一陣の風のように、何かが夕月夜の体を攫っていった。 「若君、ふり返りませぬぞ。まずは生きねば、仇も討てますまい」 「君は、人狼の……っ」 「戒にございまする。風河さまの代わりに、この上は俺が、若君を守りましょうぞ」 漆黒の短い髪。前髪の一部分だけが紅く染まっていた。 戒と名乗ったその男は、あたしごと夕月夜を抱えて、ただただ疾走する。漆黒の着物に、緋色の帯。一度もふり返ることなく草を蹴った。それは、ものすごい速度で。 鮮血に塗れたあの地獄から、どんどん遠く離れていく。 あれは紅い夢。 もう二度と、見たくもない現実。 「どうして、それでも生きなきゃならないの……っ」 泣きじゃくる夕月夜の、涙の雫。 あたしの頬にポタポタと降りおちる。 まだ幼いだろうに、どうしてこんな目に遭わなきゃいけないの? ただ『人と妖怪が、ともに生きられる世』を……そう願っただけであろうに。こんなのは嫌だ。いくら敵だからって、まだ小さな子どもが……こんな目にあっていいワケないよ! 「貴方はそれでも、あやかしの夢にございますれば」 「私が、夢?」 「そうです。残された妖怪と子ども達には、貴方が必要だ。新しい長になっていただかねば」 「長なんて、私には……なれないよっ」 「いいえ、貴方にしかなれません」 強くキッパリと、戒が言い放つ。 いつの間にか、長岡京を離れどこかの山奥に辿りついていた。生き残ったのは子ども達5人と、夕月夜の父上に仕えていたであろう妖怪達が、2

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